BNY Mellon、AIを活用してマスターデータを改善

誰が誰にいくら借りているかというデータは、どの銀行でもビジネスの核となる。BNY Mellonでは、そのデータへのこだわりが組織図にも表れている。チーフ・データ・オフィサーのエリック・ハーシュホーンは、同行のCIO兼エンジニアリング責任者のブリジット・エングルのすぐ下にいて、銀行の各ビジネスラインのCIOを統括している。

「データに関わる多くのビジネスチャンスには、テクノロジーとの緊密な連携が必要だからだ」とハーシュホーンは言う。「私は銀行の各部門のCIOと同業者であり、分離することができないため、手を取り合って仕事をしている。私は方針を決めることができるが、それだけでは仕事を成し遂げることはできない。

2020年末に入行したハーシュホーンは、30年以上にわたって金融サービスに携わってきたが、その間、金融業界のデータに対する懸念は大きく変化してきた。

「20年前は、システムが倒れないようにするのが精一杯だった。10年前は、システミックな重要性や伝染を心配していた。より構造的な懸念事項を解決すると、すべてデータに戻る。私たちは、データの観点から私たちを取り巻く世界の相互関係を理解するための高度な能力を構築することに、非常に強気である。」

その努力の一つの鍵は、個々の顧客に関連するすべてのデータを特定し、その顧客と他の顧客を結びつける関係を特定できることである。銀行は、マネーロンダリング防止やその他の義務を果たすために、取引相手を把握することが規制上求められており、しばしばKYC(Know Your Customer)と呼ばれることがある。

ハーシュホーン氏は「私たちが最初に解決しようとした問題は、金融業界や規制産業の大規模なデータセットにおける長年の課題であるエンティティ・レゾリューション(曖昧さ解消)でした」と話す。それは同じ顧客を指すレコードを識別して結びつけることである。

同一人物や同一企業に対して行われた多数の融資のうち、どの融資かを特定できることは、銀行のリスク・エクスポージャーを管理する上でも重要である。この問題は銀行に限ったことではなく、さまざまな企業が、個々のサプライヤーや顧客に対するエクスポージャーをよりよく理解することで利益を得ることができる。

データで顧客を定義する

しかし、顧客を知るためには、まず何が顧客を構成するのかを正確に定義する必要がある。ハーシュホーン氏は「私たちは、非常に慎重な方法を取りました」と語る。「社内のあらゆる場所で『顧客とは何か』と尋ねました」

当初は、顧客を定義するために必要なフィールド数やデータの種類などについて部門間で違いがあったが、最終的には共通の方針で合意した。

また、各部門にはすでに優先すべき支出があることを踏まえ、銀行では、この顧客マスターを導入するためのリソースを確保するために、各部門が開発者を雇うための中央予算を確保した。「開発者を雇えば、その分の費用はこちらで負担しますよ」というメッセージだったとハーシュホーン氏は語る。

顧客の定義統一が済んだことで、銀行は重複の排除に集中できるようになった。例えば、ジョン・ドウという人物の記録が100件あった場合、納税者番号や住所などのデータから、どれが同一人物なのか、ジョン・ドウは本当は何人いるのかを把握する必要がある。

BNY Mellonは、スクラッチから始めたわけではない。「BNY Mellonでは、顧客データベースの曖昧さを解消するために、かなり高度なソフトウェアを自行で構築していました」とハーシュホーン氏。しかし、このソフトウェアでは、手作業が必要なケースが一部あったために銀行はより良いものを必要としていた。

社内ソリューションの改善には時間がかかると、同氏は言う。「これは中核的な機能ではなく、社外でより賢い人々を見つけた」

その中には、機械学習と複数の公的なデータソースを用いて、エンティティ・リゾリューション・プロセスを強化する英国のソフトウェア開発会社、Quantexaのチームも含まれていた。

このベンダーは、同氏が入社する直前にBNY Mellonに対し最初のPoCを提供したため、彼の最初のステップの1つは、1カ月にわたる価値実証に移行することだった。既存のデータセットをベンダーに提供し、社内ツールとの性能比較を行った。

その結果、同一人物に関連する可能性があると判断されたレコードの数が増え、高い割合で自動的な解決を実現した。

「このような相関関係があればある程度自信を持てます。私たちは特定の事柄の自動化を推進したいので、高い信頼度を求めていました」と彼は言う。

BNY Mellonは、本格導入のためのインフラ設定とデータワークフローの整理に時間をかけた後、ソフトウェア開発会社と銀行の3つのグループ(優秀なテクノロジーチーム、データ専門家、KYCセンター)のスタッフが参加して、完全な導入に踏み切った。「規制の観点を考慮してこのプロジェクトを確実に実行できるのが彼らなのです」と彼は言う。

Quantexaのソフトウェア・プラットフォームは、単にエンティティ・リゾリューションを行うだけではない。 誰が誰と取引しているか、誰が住所を共有しているかなど、データ内のつながりのネットワークをマッピングすることもできる。

今のところ、課題は「いつ止めるか」を知ることかもしれない。「顧客記録を外部のデータソースと関連付け、さらにそれを自社の活動と関連付け、取引監視や制裁を追加する。これらのデータセットを相関させることの価値を理解し始めると、より多くの成果を生み出すことができると考えるようになるため、私たちは今、より多くのデータセットを複合的に追加するPoCを行っている。あらゆるユースケースを投入したい。」と同氏は言う。

テクノロジーサプライヤーに投資する

BNY MellonはQuantexaの顧客というだけでなく、投資家の一人でもある。同社と1年間協働した後、2021年9月に初めて株式を取得した。

「製品の開発方法について意見を出したかったし、諮問委員会にも参加したかった」とハーシュホーン氏は言う。

Quantexa社への投資は、同行にとって特別な決断ではない。同行が投資した技術サプライヤーには、他にもポートフォリオ管理の専門ツールであるOptimal Asset Management、BondIT、Conquest Planning、ローコードアプリケーション開発プラットフォームGenesis Globalがある。そして2023年4月にはIT資産管理プラットフォームEntrioにも投資した。

しかし、顧客と投資家という役割は、必ずしも一致しない。「この戦略は、私たちが利用するすべての新しいテクノロジー企業に適用できるとは考えていません」と彼は言う。

競合他社に利用されないように、重要なサプライヤーの株式を購入する企業もあるが、Quantexaのエンティティ・リゾリューション技術に投資した同行の目的はそうではないとハーシュホーン氏は言う。

「これは独占的な技術ではなく、誰もがこの技術に優れている必要がある。金融犯罪の手口はますます巧妙になっている。業界全体と歩調を合わせることは、金融市場の健全性を保つ上で非常に重要なことだ。」と同氏は語る。

BNYメロンは、2023年4月にQuantexaに再び出資。この時、ABNアムロとHSBCという他の2つの銀行も一緒に投資に加わった。

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